退職時の有給休暇消化の注意点・対処法
「晴れて転職先が決まった!」「無事に内定がもらえそう」というあなた。まずは転職活動、本当にお疲れ様でした。
ところで、現在の職場で退職の手続きは進んでいますか?そして、有給休暇は消化できていますか?いざ退職準備…というときに慌てないよう、有給休暇の消化他、円満退職するためのポイントについて知識をつけておきましょう。
「引き継ぎが長引いて有給休暇がとれなかった…」「そもそも有給休暇があること自体忘れていた…」「退職時にすべて消化したつもりが、実はできていなかった…」そんな残念なことが起きてしまわないよう、注意点をまとめてみました。
目次
1.退職時に有給休暇を消化するには
そもそも退職時に有給休暇はとれるの?
もちろん、とれます。
有給休暇は、労働者に与えられた平等な権利です。請求する時期や利用目的については、一切の制限がされていません。「辞める前に休むなんて後ろめたい…」と思うかもしれませんが、有給休暇の取得は労働者に与えられた権利であり、取得させることは会社としての義務です。
とはいえ、仕事の引き継ぎが長引く場合や終わらないという事態が発生することもしばしば。退職日から逆算してきちんと引継ぎが終わって休めるよう会社と調整をしましょう。
有給休暇は何日間とれるの?
すでに支給されている分だけとることができます。今あなたには何日有給休暇が残っているでしょうか?支給条件を確認しましょう。
【1】入社から6ヶ月間継続して働いている
【2】労働日のうち8割以上出勤している
上記2点を満たした場合、10日間の有給休暇が支給されます。
また、支給日数は勤務年数に応じて増えていきます。以下の表で、あなたが今現在何日間の有給休暇を保有しているか、ご確認ください。
勤続期間 | 6ヶ月 | 1年半 | 2年半 | 3年半 | 4年半 | 5年半 | 6年半 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
有給日数 | 10日 | 11日 | 12日 | 14日 | 16日 | 18日 | 20日 |
6年半以降は、1年ごとに20日支給されることになります。
一方、有給休暇の有効期限は2年間。そのため、どんなに長く務めていて、有給休暇を一度も取得したことがなかった人であっても、最大で保有できる日数は40日間までとなります。
入社から3年、昨年5日間の有給休暇を取得した人を例に挙げた場合ですと、
12日+11日−5日=18日の有給休暇が残っているということになるワケです。
有給休暇を消化するときのパターン
退職前に有給休暇を消化するには、代表的な取得パターンは2つあります。1つは「最終出社日の前に有給を消化し、最終出社日を退職日にする」というパターン。もう1つは「最終出社日の後に有給休暇を消化し、有給消化期間の終了日を退職日とする」というパターンです。それぞれについてご説明します。
最終出社日の前に有給休暇をとる場合
退職日となる最終出社日の前に、いったん有給休暇を消化しきるパターンです。業務の引き継ぎは、有給消化期間がスタートする前か、消化期間を終えて退職する前に行ないます。周囲が不安にならないように、あらかじめ引き継ぎの相手やスケジュールを明確に伝えておくと良いでしょう。有給休暇の消化後、最終的な片付けや挨拶などを終えたら退職となります。
最終出社日の後に有給休暇をとる場合
こちらは、最終出社日と退職日が異なるパターンです。最終出社日の翌日から有給休暇の消化期間となり、有給休暇が終わると同時に退職となります。たとえば有給休暇が2週間分あり、12月末を退職日する場合にも、退職日の2週間前を最終出社としてそのまま有給休暇期間に入ることができるのです。
2.退職時、円満に有給消化するための3つのポイント
いくら権利だからとは言え、あなたの有給消化が職場に多大な迷惑をかけるようであっては、円満退職はできませんよね。
また、万が一転職先へそのような情報が流れてしまえば、印象は悪くなります。何より、お世話になった会社ですから、”立つ鳥跡を濁さず”の気持ちで、綺麗に去りたいものです。
その1:意思伝達はお早めに!
退職が決まったら、なるべく早く「直属の上司」に伝えましょう。
法律上では、申し出から2週間での退職が認められていますが、多くの会社では退職の申し出は1~2ヶ月前となっています。これは、人員補充や業務の引き継ぎを考慮した期間を設定しているからです。そのため、可能であれば2ヶ月前までには申し出ておくと安心でしょう。
またその際、有給休暇を消化したい旨もあわせて伝えるようにしてください。退職日や引き継ぎ、有給消化日数などを含めた具体的なスケジュールを、上司と相談するためです。
有休消化日数が10日を超える場合、引き継ぎ期間もかなり少なくなってしまいます。きちんと引き継ぎをして、円満に退職するためには、やはり早めの相談が肝心ですね。
その2:事前に日数の確認を!
退職前に有給消化をしたい場合は、事前に有給休暇の保有日数を確認。上記の表をつかって、あなたが消化できる有給休暇日数を割り出しておきましょう。
尚、注意していただきたいのは、「就業規則に定められている休日は、有給休暇としてカウントされない」という点です。
たとえば、「有給休暇を15日分残していて、月の16日~30日を使って消化したい」といった場合。もし、土・日休みの完全週休2日制で働いている方であれば、この期間に含まれる2週間分の土・日(4日間)は、就業規則で定められた通常の休日となります。
そのため、16日~30日に有給休暇として消化できるのは、最大で11日分のみ。15日分の有給休暇を取得したいなら12日~30日を有給消化期間とする必要があります。
「土日も計算に入れてしまっていたため、すべての有給が消化できずに終わっていた…」なんてケースもよくあるようなので、どうぞご注意ください。
その3:引き継ぎも抜かりなく!
有給消化日数を考慮したスケジュールを組み、最後まで引き継ぎを行ないましょう。
お世話になった取引先に退職を伝える際は、有給消化期間があることを伝えておくとベターです。もしくは、有給消化が始まる前日を退職日として伝えておくと良いでしょう。
あなたが有給消化中であることを知らない取引先から連絡を受けたり、そのせいで会社としての対応が遅れてしまったり…という事態を避けるためです。
3.本当にあった退職と有給消化に関するトラブルと対処法
ここまで、退職前の有給消化についてお話をしてきました。上記に挙げたようなポイントを抑えて取得していただければ、なんら問題はないかと思います。つまり、事前の準備とまわりへの配慮を心がけましょう。ということです。
では最後に、退職前の有給消化に関して、本当にあったトラブル例と対処方法を見ていきましょう。
その1:退職前、有給休暇を使わせてもらえなかった…
転職活動で無事に内定をもらい、退職の意向を上司に伝えたAさん。有給消化についても相談したところ、上司からは「退職する社員は有給消化しないのが、うちの慣習だから」「これまで誰も消化した人はいない」などと言われました。
「有給休暇の取得は権利ですよね?」と食い下がったものの「辞めることで会社に迷惑をかけるのに、有給休暇まで消化しようとするのは非常識だ」とまで言われてしまいます。結局Aさんは、有給消化を泣く泣く諦め、最終日まで勤務を続けました…。
▼この場合、どうすればよかったの?
Aさんのようなケースは、残念ながら未だに多発しているようです。この他にも「会社の規定で退職時の有給消化はできない」「経理の締め日が過ぎてしまっているから、受理できない」など、いろいろと理由をつけて拒否されることがあります。
いかなる理由をつけようとも、会社が従業員からの有給申請を拒否すれば、労働基準法第39条の違反です。では、Aさんの場合、どのように対処すれば良かったのでしょうか?
>>まずは人事に申請を!
相談・申請する相手を、上司から会社の人事部へと変えましょう。Aさんの場合、直属の上司への相談にとどまっていました。この場合、上司はAさんが有給消化をすることによって「周囲から、部下をおさめることができない上司とみなされる」「仕事が滞る」などのデメリットが大きい立場にあります。
一方で人事部は、当事者から離れた位置にいるため、客観的に物事を判断してくれるでしょう。法律や労務にも詳しいため、上司の言い分が違法であることもわかると思います。
>>それでもダメなら労働基準監督署に相談を!
人事部からも拒否されたという場合、会社として法律を守る意識がないと言えます。その場合は、各市町村に設置されている労働基準監督署へ相談しましょう。
または「労働基準監督署に相談させてもらいます」と人事部に伝えるだけでも効果があるはずです。就業規則や事実確認などの調査が入る場合があるため、会社としても圧力を感じ、申請が受理される可能性が大きくなります。
その2:退職前、有給消化が間に合わなかった…
30日間の有給休暇が残っていたBさん。しかし、退職を告げたのは退職を希望する1ヶ月前で、残り営業日は20日しかありませんでした。よって、10日分の有給休暇が消滅することに…。
▼この場合、どうすればよかったの?
こちらもよくあるパターンのようです。やはり事前に、残りの有給休暇日数を把握し、退職の届け出をするという手順を踏むべきだったのでしょう。では、Bさんに手立ては残っていないのでしょうか…?
>>中には、有給休暇の買い取りをしてくれる会社も!
原則、有給休暇の買い取りは認められていません。なぜなら、有給休暇は心身を休めてリフレッシュする目的で支給されるものだからです。
一方、退職時の有給休暇については、例外が認められる場合も。Bさんのように物理的に取得ができない場合や「業務が忙しく消化ができない」といった場合に、買い取りをしてくれる会社もあります。つまり、消化できなかった有給休暇分の賃金をもらうという解決方法です。
ここで注意するべきなのは、買い取りが行なわれるかどうかは、会社によって異なるということ。詳細は、就業規則を確認しましょう。また、仮に買い取りを行なっているとしても金額は企業が定めるものになります。平均賃金を下回るケースもあるということも忘れないでいてください。
その3:退職後、有給休暇分の給与が支払われなかった…
10日間の有給休暇を消化して、退職したCさん。その後、会社から送られてきた最終出社月の給与明細を見ると、10日分の給与が引かれた金額が記載されていました。新しい職場での仕事が忙しかったCさんは「しょうがないか…」と泣き寝入りするハメに…。
▼この場合、どうすればよかったの?
有給休暇を取得したつもりが、“有給”ではなく”無給”の休暇となっていた…というのがCさんのケースです。給与明細を見た時点で、Cさんがすべきだった行動を見ていきましょう。
>>会社へきちんと請求を!
適正に有給消化の申請を行ない、受理されたにも関わらず、給与が支払われなかった場合。賃金不払いとして不足額の請求を行ないましょう。書面での請求を行ない、証拠を残したほうがベターです。
会社からレスポンスがない、支払ってもらえないといった場合は、労働基準監督署へ相談しましょう。その際、有給休暇を申請した際の書面も用意しておいてください。有給休暇の消化は、労働者の権利。給与が支払われなかった際には、きちんと請求を行なってくださいね。
4.退職時の有給消化に関するよくある質問と回答
取得できなかった有給休暇は買い取りしてもらえるか?
原則として、有給休暇の買取りは労働基準法で禁止されています。ただ、いくつか例外的に認められているケースがあり、「退職時に消化しきれない有給休暇の買い取り」もその1つです。「業務の都合上、どうしても有給休暇を消化できない」といった場合には、会社側に有給休暇の買い取りをしてもらえないか相談してみましょう。
ただし、あくまで「労働基準法で買い取りが禁止されていない」というだけで、買い取るかどうか・いくらで買い取るか、といったことは企業によって異なるので注意してください。詳細は、勤めている会社の就業規則を確認することをオススメします。不明点や不安な点があれば、人事や労務などに相談してみても良いでしょう。
有給消化期間と転職先の試用期間が重なってしまうのはダメ?
問題があるケース
在職している企業・転職先の企業のいずれかが、二重就労(兼業)を禁止している場合です。就業規則で禁じられた兼業を行なうと懲戒解雇の対象となることもなり、退職金が支払われなくなる可能性もあります。これは、短期のアルバイトであっても同様です。必ず就業規則を確認し、心配があれば双方の企業に直接確認しましょう。
問題がないケース
在籍している企業・転職先のいずれも二重就労(兼業)を禁止しておらず、在籍期間が重なることの了解が得られば問題はないでしょう。ただ、注意したいのは雇用保険の手続きです。健康保険、厚生年金、労災保険は二重に加入できますが、雇用保険はできません。在職している企業の雇用保険を喪失しなければ転職先の企業で雇用保険の手続きが取れないため、在籍している企業で「雇用保険の資格喪失手続き」をしてもらうことを忘れないようにしましょう。
有給休暇消化中に転職活動をするのは問題ない?
有給消化中の転職活動は、全く問題ありません。企業に在籍して働きながら転職活動を行なうことが可能なのですから、有給休暇の消化中も同様です。もし、「有給消化器官に入るまで転職活動をする余裕が一切ない」という場合には、この期間を有効活用して転職先を探すのも良いでしょう。
しかし、転職活動は想定以上に長期化することもあります。退職してからの転職活動は時間的な余裕はありますが、収入がストップするため金銭的な余裕を失いやすいことがデメリット。転職活動が長期化するほど焦りも出てくるでしょう。納得できる転職をするためにも、転職活動をスタートする時期には充分注意してください。
有給休暇消化中のボーナス支給日が来たら、ボーナスは支払われる?
一般的に、ボーナス(賞与)は支給額の算定期間における会社業績・勤務成績に応じて支給されるものです。そのため、支払日には有給休暇の消化中であったとしても、算定期間に勤務実績があればボーナス支給対象になります。休暇中であっても、その会社に在籍していることは変わりないためです。
ただ、ボーナスの支給額については会社側の裁量に委ねられています。よって、「有給休暇中のため減額」となる場合もあると考えておいてください。具体的な額が気になる場合は、退職までのスケジュールを相談する際にあわせて確認してみると良いでしょう。
派遣社員は退職時に有給休暇を消化できる?
もちろん、派遣社員の方も退職時に有給休暇の消化ができます。
その際に注意したいのは「派遣契約期間内で有給休暇を取得する」ということです。契約が満了した後は有給休暇が取れないため、契約満了日までの日数と、付与されている有給休暇の日数を照らし合わせてください。
もし「業務が忙しく、派遣契約が満了となる日までに有給休暇を消化できそうにない」という場合は、派遣元に契約期間を延長してもらう必要があります。残っている有給休暇の日数分だけ契約期間を伸ばせば、有給休暇を消化してからの退職が可能です。
なお、場合によっては残った有給を次の派遣先でも取得することができます。たとえば、派遣会社が「契約満了から1ヶ月以内に次の派遣先が決まれば、派遣会社との契約が継続していると見なす」といったルールを採用している場合。該当する人の有給休暇は失効しません。早めに派遣会社に相談し、計画的に有給休暇を消化しましょう。
5.円満退社に向けて、計画的な有給消化を!
様々なケースにおける有給休暇の消化方法や、有給消化中の過ごし方について、ご理解いただけましたでしょうか。円満に退職し、スムーズに次のステップへと進むためには、計画的な有給消化を行なうことが大切です。迷ったときには就業規則を確認し、不安なことがあれば人事・労務に相談して正確な情報を得るようにしてください。
あわせて読みたい
退職届・退職願の書き方ガイド ~違い・テンプレート・封筒の書き方など~
退職願・退職届の書き方ガイドでは、言葉の違いを説明するとともに、書き方や会社への渡し方などをご紹介します。