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GitHubリポジトリで8000スター獲得、人気OSS「Boostnote」オープンソース化の軌跡

GitHubリポジトリで8000スターを獲得しているプログラマ向けノートアプリのBoostnote。グローバルな開発コミュニティを築き上げた経緯についてインタビューしました。

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Boostnoteというアプリをご存知でしょうか?
こちらはElectronで作成されたデベロッパー向けのノートアプリ。実は海外ではとあることでとても有名なアプリなのです。

なんと企業が事業として開発しているアプリにもかかわらず、コードをすべてオープンソースとしてGitHub上に公開しているのです。海外を中心に注目度は高く、世界中のコントリビューターがBoostnoteに携わっています。現在、GitHubのスター数が8000を超える人気のOSSとなっています。

Boostnoteはどのようにグローバル展開とし、どのように開発コミュニティを広げていったのか、今回はそれらを手がけるBoostIO社のCEOである
横溝一将(よこみぞ・かずまさ/kazup_botさん、CTOのChoi Junyoung(チェ・ジュンヨン/rokt33rさんにインタビューをしました。

日本と海外における開発者の考え方の違いや、17歳の未踏ジュニアエンジニアとの出会い、グローバルファーストに開発を行うメリットなど、オープンソースを公開しているお二人にしか体験できない数々の世界が広がっています。

今回のインタビューを通して、オープンソースという文化だけでなく、日本と海外の文化の違いを知り、開発者としての自分のあり方を深く考えなければならないと思いました。

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横溝一将さん:北九州市立大学を卒業後、福岡にて起業。受託開発を中心に仕事を行う。その後、ハッカソンの優勝をキッカケに株主と出会い上京を決意する。現在はBoostIOのCEOとして、経営面や営業面などの業務をこなしながら、開発にも携わっている。

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Choi Junyoungさん(※以下、愛称のサイと表記):釜山から留学し、九州大学在学時に横溝氏と出会う。JavaやPHPなどの言語を経て、現在はTypeScript、Reactを中心に開発を行なっており、BoostnoteではCTOを務める。現在は韓国と東京を行き来する生活。

オープンソース化することによって開けた世界

boostnote

Boostnote:プログラマのためのノートアプリ。100種類以上のプログラミング言語にフォーマット対応しており、Markdownでの記載が可能。GitHubにてオープンソースとしてソースコードが公開されており、世界中にコントリビューターがいる。GitHubではスター数が8000を超えている(2018年6月現在)。

──Boostnoteというアプリケーションを作ろうと思ったキッカケは何だったのでしょうか?

サイ 今はMarkdownでコードを記録していくアプリですが、開発当初はノートアプリですらありませんでした。最初はchefみたいな感じで、CLIのコマンドをサーバから持ってきて実行するようなサービスにしようと思っていました。何かのプロジェクトを始めるとき、サーバに新しいOS入れたりすると毎回同じコマンドを打つじゃないですか? 同じことを繰り返すことが面倒だったので、そういったCLIコマンドのスニペットをためておけるWebサービスを目指していました。

──なぜそこから現在のノートアプリのような形にピボットしたのでしょうか?

サイ 正直なところ、CLIをためていくサービスはギーク過ぎました。使われる幅が狭いんです。CLIだけを保存できるのではなく、より一般的にするためにMarkdownでコードをメモしていけるような今の形にしていったんです。簡単に言ってしまうと一般的なニーズに合わせたということです。

──Boostnoteはオープンソースで開発していることが特徴的ですが、オープンソースにすることは初期設計の構想にあったのでしょうか?

横溝 初期の構想にはありませんでした。開発を始めて半年ほどたったときに、サイがオープンソース化について案を出しました。

サイ オープンソース化した方が面白そうだし、可能性を広げられそうだなと思ったんです。あとは性善説を信じて「公開することで、誰か助けてくれるだろう」みたいな気持ちもありました。

横溝 僕は当初、オープンソース化には反対していました。やはり公開することでそのままソースコードを真似されてしまうんじゃないかという不安があって。でも、最終的には「面白そうだからやってみよう」ということで意見が一致し、公開することにしました。

結局は公開から1年半たっても、Boostnoteをそのまま真似したようなアプリは一つも出てきませんでした。Boostnoteの開発者コミュニティが一体となって開発は進んでいるので、オープンソース化は絶対にやってよかったと言えますね。

Slack

BoostnoteのSlackには開発者グループがあり、日々ユーザ機能やバグなどについて議論されている。横溝さんやサイさんが議論に加わらなくとも、活発にやりとりがされており、コミュニティはユーザーが主体となって成熟している。

──Boostnoteの開発者のコミュニティには現状でどのくらいの人が関わっているのでしょうか?

横溝 僕たちの会社からコアで関わっているのは3人だけです。しかしSlackには500人、Facebookには600人ほどの人がいます。彼らがやりとりを重ねてBoostnoteは作られています。もう僕たちが加わらなくても自発的なコミュニケーションがとられていて、コミュニティ内で誰かが質問すると、誰かが答えるという形ができています。

サイ プルリクも週に20個以上くるので、現状はそれを見るだけで私は手一杯になっています。自分でコードを書いている時間もほとんどありません。

──今は開発者のコミュニティが形成されていますが、Boostnoteがオープンソース化してからすぐにそういった反響はあったのでしょうか?

サイ 公開直後はそれほど反響はありませんでした。今のようにプルリクがたくさん来ることはなかったですね。

──いつ頃から多くの反響を感じるようになったのでしょうか?

横溝 BoostnoteはGitHubが開発したElectronを用いて作られているデスクトップアプリなんです。Electronが公開されてからすぐに僕らは開発を始めていました。それで運がいいことにElectronの公式紹介ページに事例としてBoostnoteを掲載してもらっていたんです。その時期はある程度アクセスが上がりました。

BoostnoteStar

BoostnoteのGitHubのスター数の伸び率を表したグラフ。2017年ごろに一気に上昇し、そこから右肩上がりで伸び続けている。

横溝 GitHubのトレンディングに載った際、爆発的にスター数が伸び、Boostnoteが世界的に認知されました。それをきっかけに海外の「OMG!ubuntu」や「FOSSMint」といった複数のメディアに取り上げてもらい、その記事がTwitterでも追いきれないくらいシェアされました。その後は順調に伸びていますね。

──日本で拡散されて広まった訳じゃなく、国外のメディアによってシェアされたんですね

横溝 Boostnoteはなるべく日本の色を消そうと思って作っているので、それも関係あったのかなと思います。

──なぜ「日本の色を消そう」と思ったのでしょうか?

横溝 とあるアメリカ人の知り合いに「世界で戦うなら日本語はやめろ」と明確に言われたという経緯があります。ハッとして、すぐに日本語のLPページなども削除しました。今はUIも変更してグローバルファーストを意識するようにしています。

よくよく考えてみると、自分が知らない外国語のLPを見た際に「このアプリを使うか?」と、聞かれたら絶対に使わないですよね?英語か母国語以外のものって選択肢に入らないと思うんですよ。

サイ 中国にアリババという超巨大な会社があるじゃないですか?あそこがオープンソースでライブラリを出したんですけど、半分は中国語で半分は英語みたいな状態だったりするので、離脱する人が多かったという話を聞いたことがあります。

Boostlog

Boostlog:プログラマのためのブログプラットフォームサイト。すでに200カ国以上の国々で利用されている。

──「日本の色を消す」という意味では、同じように運営しているBoostlogというサービスも始めからグローバルファーストを意識して作られているように感じました。

横溝 そうですね。Boostlogも同様に日本の色は消すようにしています。

──いずれはBoostlogもオープンソース化するのでしょうか?

横溝 はい、オープンソースにしようと思っています。オープンソースはコミュニティを作るための良い手段なんですよ。手段としてのオープンソースと言ってもいいかもしれません。
「開発者のコミュニティを作る」という目標は、僕らのやらなくちゃいけない使命だと感じています。

Boostlogは利益をまったく考えていなくて、そういった開発者のコミュニティを作る一つの場所だと考えています。

──そういった使命感は起業したときから持っていたのでしょうか? それともBoostnoteをオープンソース化してから生まれたものなのでしょうか?

横溝 完全にオープンソース化してからですね。Boostnoteの開発コミュニティって自立分散的に成り立っていて、ほぼ僕らが管理しなくてもよい状態です。SlackやGitHubでユーザが疑問を投げたら、誰かが回答してくれるし、バグレポートも誰かが解決してくれます。

──オープンソースにすることによってさまざまな恩恵があったのですね。ただその一方でオープンソース化によるリスクもあると思います。どのようにお考えでしょうか?

横溝 もちろんリスクはあります。セキュリティ的な面もそうですし、大勢が関わっているのでコミットをミスすると実質巻き戻しができないというものあります。僕らのような会社ではいいですが、これを上場企業などでやるとリスク管理やその対応が大変ですね。

サイ BoostnoteのライセンスはGPL V3をつかっていますが「少しは真似しづらくなるかもしれない」という妥協から選んだものでした。現在の状況を考えると、もっと規制のゆるいMITで公開してもよかったのではと思っています。

ただ、この選択はBoostnoteだからこそできることなんです。オープンソースを企業がやる場合、公開範囲をハッキリさせて、ライセンスまで気にしないといけません。例えば大規模なサーバ系のツールをオープンソース化するとしたら、どこまで公開するのかは慎重に考えるべきだと思います。やはりそのまま真似されるリスクはあるので、会社が何をやりたいかを考えた上で公開範囲やライセンスを決めるのは大事なことです。

いろいろなリスクはありますが、Boostnoteは開発に関わってくれる人が多く、作り上げてきた開発コミュニティは簡単に真似できるわけじゃないから、今は何も怖くはないですね。

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コントリビューターが自由に開発できるような環境を作りたい

──Boostnoteは初期段階でWebベースだったものをElectronに変えていますが、何かキッカケがあったのでしょうか?

サイ ブラウザを立ち上げて、タブを開いて……とやるよりも、アプリですぐに立ち上がった方がユーザ体験としては良いと思い、デスクトップアプリに切り替えました。あとは僕が新しいもの好きというのもあり、Electronが公開されてからすぐに使いたかったというのもあったんです(笑)。

そのおかげか、当時はまだElectronのアプリをオープンソースで公開しているところが少なかったため、他の開発者もBoostnoteのソースコードに興味を持ってくれて、アプリの存在が広まったのではと思います。Electronを使ったアプリのコードを見たければ、僕らのコードを見るしかないという状況ができたんだと思います。

ただElectronはバイナリコードを入れられたり、クライアントのシェルが触れたり、いろいろなことができてしまうのでリスクもあります。そこはMacやWindowsなどでもきっちり証明を出すようにして、外部から危険なことをできないようにする必要はありますね。

──環境もPHPからnode.jsとなり、フロントフレームワークもAngularからReactに変えていますが、これらの言語などの変更はオープンソースを見越してなのでしょうか?

サイ オープンソース化はそんなに関係ありません。それぞれ限界が見えたからというのがあります。Socket通信を使うことや、少ないメンバーで開発を早く回すためには自然とNode.jsというのが選択肢としてありました。

あと当時はAngular1.0系だったのですが、$digest ループが不明確すぎるのと、Reactの方がコンポーネントの仕組みが分かりやすかったので、将来のことを考えて乗り換えました。Reactはデータフローが分かりやすいのもいいですね。

──世界中からプルリクが上がってきてお忙しいと思うのですが、マージ方針などはあるのでしょうか?

横溝 基本的にはサイがやっています。僕や他の社員がレビューするときもありますが、最終的なマージはすべてサイに任せています。

サイ 今はチェンジログ書くだけでも時間をかなり使っていて、自分はあまりコードが書けていません。
プルリクを見るときに気をつけていることがあり、「影響範囲が大きくなる前に止める」ということは意識しています。プルリクを放置してしまうと、開発者が勝手にどんどん作っていくようになってしまい、コードも複雑になり、どうしようもなくなってしまう場合があります。早めに話し合いをし、なるべくシンプルに作ってもらうようにしています。

──逆にリジェクトするときはどのようなときがあるのでしょうか?

サイ もらったプルリクは基本的にマージするので、何もせずにリジェクトはしません。開発してくれる人も時間をかけてやってくれていることなので、その人のプルリクがちゃんと生かされるようにしたいと思っています。

オープンソースでやっていることなので「それはやるな!」とは言いたくないんです。方向性だけ僕らが決めて、あとは好きにやってもらう方がいいと思っています。

だから、プルリクもそうなのですが、Issueで上がってきた段階できっちりと必要性を詰めるのも大事だと思っています。作る側もその方がゴールが分かり、開発しやすいと思います。

──たくさんのプルリクが来る中で、何か印象的なものはありますでしょうか?

横溝 プルリクが多過ぎてどれが印象的かって決めるのは難しいですが、自分たちでは思いつかないようなものは毎週のようにあがってきています。

サイ 全世界の開発環境や言語も全く違うため、知らないニーズがたくさんあって、目が覚めるような気持ちになります。開発者のモチベーションの高さを感じますね。

──Boostnoteの開発について、今後なにか考えている展開はありますか?

サイ 今は色んな開発者がいてコミュニティベースで進んでいるので、機能が乱雑になっている部分があります。Boostnoteのそれぞれの機能をバラバラにして、プラグインのようにわけたいと考えています。最低限の機能を残して、使いたい人だけがプラグインを追加するようなシンプルな形にする予定です。

あと使っている技術が古くなってきているので、それらを新しい技術にしたいとは思っています。機能も開発環境も含めて、いろんな人のニーズに対応できるようにしていこうと思っています。

オープンソースによって生まれた17歳の未踏ジュニアエンジニアとの出会い

──オープンソースに貢献することはキャリアを形成する上で大切なことだと思いますか?

横溝 エンジニアのキャリア形成として、すごく良いと思います。何にコントリビュートしているのかって可視化されますし、世界共通で評価される部分だと思います。サイのGitHubを見てもらうと分かると思いますが、彼のスキル的に多くの企業が欲しがるような実力があると思います。また、Boostnoteによくコントリビューションしてくれる人はやはり僕らも記憶していて、その人たちがもし「一緒に働きたい」と言ってくれたら即OKをだしますね。

自分のキャリアの一貫として、日本でももっとオープンソースのコントリビューションはやっていくべきだと思っています。うちの会社に鈴木颯介 sosukesuzuki という17歳の社員がいるんですが、彼はエンジニアとしてかなりの実力があると思います。

──17歳ですか!その方とはどうやって出会ったのでしょうか?

横溝 彼との出会いが面白くて、これもBoostnoteがつなげてくれたものでした。

知人が主催していたハッカソンで鈴木がBoostnoteのロゴが入ったパーカーを着ていたらしいんですよ。僕は会場には行ってなかったのですが、ハッカソン主催の方が「Boostnoteのユーザがいたぞ!」って鈴木の写真を僕に送ってくれました。それをキッカケにして会ってみることにしたんです。

鈴木はそのとき普通高校に通いながらガソリンスタンドでアルバイトをしていました。けれど、本人も「プログラミングで食べていきたいです」と言っており、僕はそれを聞いたときに「もったいないな」と感じたんです。そこで僕が「アルバイト辞めるならうちにきていいよ」と鈴木に言うと、すぐに辞めて、Boostnoteの開発に参加しました。そこから1年たつころ高校も退学し、うちに完全にJoinしました。

──海外のドラマや映画のようなエピソードですね

横溝 鈴木は未踏ジュニアにも選ばれてもいて、かなり優秀だと思います。年齢なんか関係ないんだなと、彼を見ていると思いますね。

鈴木のキャリアにもオープンソースに寄与することは役立っていて、未踏ジュニアの面接のときにも「オープンソースにコントリビュートしている」という話をしたら、相手に響いていたと聞きました。

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できないことを自覚して助けを求めることで、コミュニティは広がる

──Boostnoteが使われている割合について、海外と日本だとどのくらいの比率なのでしょうか?

横溝 Boostnoteに関しては87%、Boostlogについては90%以上が海外ユーザですね。Boostlogは僕らが想定しているより広がっていて、今では200カ国以上で使われるようになりました。

──使用しているユーザはほとんどが海外のようですが、コントリビューターも同じように海外の人が多いのでしょうか?

サイ ほとんどが海外ですね。最近は日本の方のコントリビューターも少しずつ増えてきて、とても嬉しいです。

横溝 そもそも日本でオープンソースに関わっている人の母数がかなり少ないと感じることがあります。

海外のコミッターは、まず「こんないいものを作ってくれてありがとう」という感謝から入り、バグの報告や提案を投稿した後、自分の直したいところのプルリクエストを送ってくれます。
BoostnoteをSNSで検索すると、日本語では細かい指摘や不満の意見が多いんです。もちろん最終リリースを行っているのは僕らなので僕らに責任がありますが、たまに悲しい気持ちになります。

オープンソースというよりも国の文化なのかなと思います。そういったこともオープンソースに触れて初めて学びました。
このあたりに関しては、他のオープンソースを作っている方からも同じ意見を聞いて共感したことがあります。

──海外の開発者たちと関わるときに「言語」や「技術水準」の違いなどあると思いますが、そのあたりは開発の障壁になったりしないでしょうか?

横溝 オープンソースなので、基本的に英語でやりとりをしています。なので、言語の壁はないと思いますし、もし英語以外のissueが来たらクローズするようにしています。過去にそうなったのは数件しかないので特に問題にはなっていませんね。


──さまざまな国の方が開発に関わっている状況でのメリットは何かありますか?

横溝 今、Boostnoteは12カ国語くらいで展開しているんですけど、ローカライズするときにはコミュニティの誰かが自主的に翻訳をしてくれるのはかなり助かっています。LPの翻訳も含めて全て行なってくれています。

スウェーデン語とかデンマーク語とか僕たちは読めないので、ほとんどチェックもできないですが、性善説を信じてノールックでマージすることもあります。

──コミュニティが出来上がるまでに時間がかかると思うのですが、Boostnoteのようなグローバルなコミュニティを築くコツはあるのでしょうか?

横溝 僕の中の小さな成功体験ですが、「できないことを自覚して助けを求めると、誰かが助けてくれる」というのがあります。なので積極的にヘルプを求めていた時期がありました。

サイ 僕が1年くらいBoostnoteの開発ができない時期があって、その頃はいろんな人に助けてもらいました。みんな優しいなってそのとき感じましたね。

helpwanted

横溝 今でもクリティカルなバグがあって、僕たちで直す時間がないときはGitHubで「help wanted」というタグをつけるようにしています。そうするとすぐにプルリクが来て誰かが解決してくれます。自分たちで解消できないことを認めて、開発者からアプローチが来るように環境を作ることは大事なのかなと思います。

──BoostnoteやBoostLogをグローバルファーストで開発したことによる恩恵などはありますか?

サイ 海外で展開するといろんな人に会うチャンスもあって、視野が広がりました。世界のどの国でも通じるサービスがどんなものかというのも、やってみないと分からないことですし、良い経験となっていると思います。

横溝 僕たちは日本や韓国だけというサービスを作ったことがないので、対比がないため分かりませんが、作ったものがガラパゴス化しないという利点はあります。

最近はアメリカに行くことが多いのですが、自己紹介するときに「Boostnoteを作っている」と言うと「おお!GitHubでスター8000のあのアプリを!」って言われることがあって、海外ではBoostnoteが僕たちの名刺代わりとなっています。

まだ僕たちのアプリは規模が小さいですけど、今回のインタビューもBoostnote経由でいただけたわけですし、ありがたいことですね。

オープンソースを通じて生まれた「メンテナンスを通して正しい対価を得る」という新しい働き方

──「これからオープンソースに関わっていきたい」と思っているエンジニアがいたらどのようにアドバイスしますか?

横溝 僕は「コードを書くだけがOSSへの貢献ではない」と声を大にして言いたいです。翻訳もそうだし、READMEの誤字脱字を直すことも、オープンソースへの寄付も立派なコントリビューションだと思っています。自分ができる小さいところからやったほうがいいと思っています。

サイ Issueがあがったときに「それすでに上がっていますよ」とか「もうプルリクがマージされています」と教えてくれるだけでもありがたいですね。大きいプロジェクトだとIssueが数百個もたまることがあるから、そういうことを教えてくれるのは管理者もかなり助かっています。

始めてオープンソースに関わる人は、Slackなどのチャットグループで、下手な英語でもいいから発言してぶつかってみるのは大事だと思います。

──「Boostnoteに関わりたい」という人はどうしたらいいでしょうか?

横溝 まずはやっぱりIssueとかSlackのやりとりを見てほしいですね。それで気になった部分があればIssueをあげてほしいです。たまに絶望的に分かりにくいIssueが飛んでくるときもあるくらいですので、Boostnoteにかかわらず、気張る必要はないと思います。

サイ 実はあがってくる英語の文章って、半分以上は文法がメチャクチャです。みんな母国語が英語ってわけじゃないですから、それは当たり前のことなんです。

横溝 英語はGoogle翻訳でまったく問題ありません。文法が正しくなくても意味が通じればそれで開発は進められるので。

サイ ただし、「頑張りたいけど何をすればいいですか?」というのは良くない。僕らが雇って開発をやってもらっているわけではないし、責任をとるというものでもないので、コードやIssueを見ながら自由にやってほしいですね。

Issueやプルリクを上げてもらえれば、必ず読みます。特にプルリクに関してはアドバイスや指摘は絶対にするので、遠慮せずに飛び込んできてほしいです。

──オープンソースという文化に大きく関わっていると思いますが、その中で影響を受けた部分などありますでしょうか?

横溝 「オープンにしていくこと」が大事だと学びました。先ほどと同じような話となりますが、オープンソースという文化はひとつの新しい働き方だと思うようになりました。中央の管理者がいらないので、非中央集権化のような形に自然となっていくんですよね。

サイ いいコンセプトがあればそれに共感して作っていく文化だと思います。Boostnoteも今はそうやって成り立っています。

横溝 「オープンソースに関わる人が新しい働き方ができないか?」という思いがモヤモヤとあって、それを今年の1月くらいにサイと話してアイディアを出し開発を進めていました。そして少し前にIssue Huntというサービスを公開しました。

Issue Hun

Issue Hunt:BoostIOが新たにリリースしたサービス。Issueに対して報酬を付与し、依頼することができる

──Issue Huntはどういったサービスなのでしょうか?

横溝 GitHubからIssueを取り出して、そのIssueに好きな金額を投資することができ、解決した人がその金額を報酬として受け取れるというシンプルなオープンソース向けのバウンティサービスです。

オープンソースを新しい働き方としたときに、どこからお金を得ればいいかずっと考えていました。そこでサイから「誰でも投資できるようにすればいんじゃない?」という意見がでて、僕がそれに共感してIssueに投資できる形が生まれました。

ただこのサービスは開発者のコミュニティが最初からないと成り立たないサービスなので、先にBoostlogをリリースしてコミュニティを海外に広げておいたという経緯があります。BoostlogはIssue Huntを使ってもらうためのチャネルとしての役割があるんですね。

──コントリビューターにお金が発生するという仕組みは、オープンソースにはなじみのない発想ですよね?

横溝 オープンソースが生まれてから25年の歴史がありますが、コントリビューションにお金が発生するという文化はまだないと思うので、そこのコンセプトが受け入れられるかどうかというのは未知数で、怖い部分もあります。

Issue Huntのリリース前の限定公開で僕たちはBoostnoteのIssueに3000ドルくらい投銭していて、700ドルほどは実際に一週間ほどでプルリクが送られてきました。コンセプトとしてはそこそこと受け入れられているんじゃないかなと公開前から思っています。

Issue Huntは新しい働き方を提供できる場所になると考えています。今風にいうと働き方3.0みたいな表現でしょうか。社員として雇われることが1.0で、 クラウドソーシングでPMを介して行う仕事が2.0、そして中央集権的な管理者がいない3.0になっていくのかなって。

サイ オープンソースで知らない開発者と一緒に仕事するのはメリットがあって、開発者のモチベーションがものすごく高いんです。Boostnoteに関わっている人は、Boostnoteが好きだし、楽しんでやっているので、無償でもものすごく盛り上がっています。僕たちはそこにちゃんとお金が周って、報酬として還元するようにしたいんです。

これってものすごく良いことで、開発者はやりたいことをやって稼げるし、会社員じゃないから好きなときに開発に参加することができます。

今は僕らがIssue Huntを使いながら自分たちで働き方を学んでいく段階だと思っています。どれくらいユーザに頼ってやってもらった方がいいのか?という部分などが分かってくれば、大きな会社でも使っていけるようになるんじゃないかと。僕たちが最初の良い事例になれればと思っています。

横溝 僕らはPMすら必要としてなくて、ユーザが自律分散的にIssueをたてて、バグ報告をして、勝手にそれらが解決していくという新しい働き方を提供したいと思っています。

サービスを通して世の中をデフレにはさせたくないんです。僕たちはさまざまな国に、Upworkというクラウドソーシングサービスを通して仕事を発注することがとても多いのですが給料の格差や乖離(かいり)をとても感じることがあります。

Issue Huntというサービスがあれば、スキルとパソコンさえあればお金を稼げるようになるので、よりフラットな世界になると思っています。

──日本人が思うオープンソースの考え方にいろいろと影響を与えそうなサービスですね

横溝 僕はもっと日本のIT企業にはオープンソースを出してもらいたいと思っています。自社のライブラリを公開すれば、もっと日本のITは発展していくはずです。

それからサンフランシスコに行って感じたのですが、海外ではオープンソースに対しての寄付を当たり前のように行なっています。OpenCollectiveやPatreonのようなサービスで、オープンソースに対して数千万円単位の寄付が集まっています。Boostnoteも6000ドルくらいの寄付をもらっています。

どこの企業が寄付しているのかと言うと、GoogleやFacebookはもちろんですが、trivagoやCoinbaseといった海外の新興企業が積極的に参加しているんです。

ニューヨークにいた頃、現地のプログラマーに、なぜアメリカではそういう寄付が積極的に行われているのか聞いてみたのですが、そういった開発業界へ貢献をすることが、開発者のコミュニティに受け入れられる重要な一歩だ、と教えてもらいました。

日本の企業も開発者やオープンソースに対して優しくなるというか、金銭的に支援する活動を広げていくと、直接的に世界はよくなっていくと思います。そういう考えが日本全体に広まってほしいですね。

──なるほど、オープンソースの文化が広まればもっと開発が身近となる環境が生まれそうですね。本日はありがとうございました。

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取材:megaya megayaのブログ